グローバルヒストリー班

グローバル・ヒストリー班は、人々の歴史的関係を国民史に捉われない時間的・構造的視座から分析し、いかにして価値・記憶・感情で構成される集団形成の力学の中で各々の国民的集団意識・アイデンティティが形成されてきたのか、同時に、「想像された共同体」自体が内包する国民内外の対立が、いかに具体的な事象・事件の展開と共に始まるのか、新たな解釈を与えつつ、説得的に示すことを目標にする。

こうした問題意識の根底には、従来の歴史叙述が左右を問わずナショナルな物語に収斂され、自己完結的に展開される傾向にあったことがある。ナショナルな存在自体を歴史化することが必要であり、その歴史化プロセスを立法、条約締結、そして裁判など、ハードなインフラ構築をめぐる人々の感情的論争からたどることが、本研究の主な柱となる。また、「国民」を醸成する制度としての学校教育や博物館、記念行為を対象として分析することで、各国民内部における独自の「記憶レジーム」をも認識することができよう。こうした記憶レジームの構造、そしてその間の紛争の力学も、国民史を超えたグローバルな次元で歴史を記述していく上で有効である。

英文による国際和解学のブックシリーズとして、本班は現在2冊の英語編著の刊行を進めている。 ひとつは、20世紀中心の東アジアにおいて、国民国家形成と帝国化や戦争という国際関係の展開が連動しながら、あたかも「ドミノ倒し」の如く展開することで、国民相互の和解にいかなる制度的条件が加わっているのかを明らかにしようとするものである。日本の近代化、帝国的国民の拡大、中国ナショナリズムとの衝突と帝国崩壊、冷戦による地域秩序の再編と脱植民地化、戦後日本と周辺諸国との関係正常化という歴史過程を総合的に検討することにより、この過程で民主主義や人権といった普遍的価値が、各国の歴史的経験や制度の中に定着し、左右の政治勢力が共有する「集合的記憶」となって、各々の政治的社会が形成されてきたプロセスも連関の構図の中で明らかにされよう。

他方、もう一冊は東アジアにおける文化遺産についてのものである。それは歴史認識の対立を単に反映するだけでなく、国民国家形成の過程の中でそれ自体が対立を生み出し再生産する役割を果たしてきた。特に「公認された遺産言説(Authorized Heritage Discourse: AHD)」の概念を基軸として、植民地支配、脱植民地化、戦後の国民再形成という歴史的文脈の中で、博物館、植民地遺産、世界遺産などの枠組みが、いかに国家の物語を形成し、対立や和解の可能性を規定してきたのかも明らかにされるであろう。

以上、この班の実績として予定している二冊は、アジアにおける国民国家と国際秩序の形成過程を歴史的に捉え直し、国際和解の成立条件を長期的視野から理解するための理論的・実証的基盤を提供することであろう。